個別銘柄調査レポート / 投資助言ではありません

新日本空調 1952

空調設備工事の専業。AI・データセンター銘柄として見られがちですが、売上の57.9%はリニューアル(既存建物の改修)で、データセンター関連が明示されているのは海外子会社の11.6%だけです。本質は「毎年低い予想を出して期中に上方修正する会社」で、今期は既に第1四半期に特別利益26億円(通期予想の14%)が確定しています。決算は明日。

調査日 2026-08-06
充実度 90%(最低 ④経営者88%)
市場 東証プライム(建設業)
物差しの層 コンセンサス無し(説明会はあり)
次の決算 2026-08-07(FY2027/3 Q1・確定)
株価(2026-08-06)
3,390
前期末3,260円から +4.0% / 期中高値4,400円から −23.0%
PER(実績EPS 267.76円)
12.66
5年平均 9.54倍の +32.7%
PBR
1.87
織り込みROE 14.9%(r=8%) / 実績 16.0%
PSR
1.06
時価総額1,646億 ÷ 売上1,549億
配当利回り(予想120円)
3.54%
配当性向42.6%・DOE 6.6%(下限5%)
自己資本比率
61.0%
実質無借金。金利で壊れる経路がない
政策保有株式
284億円
時価総額の 17.3%/純資産比 37.0%
Q1に計上される特別利益
26億円
税引後で通期純利益予想の 13.8〜14.2%
資本効率バンド — この会社はどういう稼ぎ方をしているか
ROIC(自前・粗い)
14〜16%
実質無借金のため投下資本≒自己資本
WACC(自前推定)
7〜8%
会社は開示していない。同業水準から推定
スプレッド
+6〜9pt
幅の中で符号は変わらない
ROE
16.0%
ROA 9.59%/中計目標18%以上
同業4社のROE中央値
20.0%
1952は同業で最も低い
レバレッジ寄与
1.67
借金で作ったROEではない
純利益率
7.85%
総資産回転率
1.222
財務レバレッジ
1.669
= ROE
16.00%
型は「中採算 × 中回転 × 低レバレッジ」。ROE 16.0%のうち実質の稼ぐ力(ROA)が9.59%あり、レバレッジ寄与は1.67倍にとどまります。自己資本比率61.0%で実質無借金のため、金利上昇で壊れる経路がありません。ただし同業(ダイダン21.3%・三機工業20.4%・朝日工業社20.2%・テクノ菱和19.8%)と並べるとROEは最も低く、中計目標の「ROE18%以上」は同業が既に達成している水準です。(検算:7.85% × 1.222 × 1.669 = 16.00%。会社開示16.0%と完全一致)
Σ

賭けの一枚 — この銘柄は、どういう賭けか

AI・データセンター銘柄ではない。売上の58%はリニューアルで、本質は「毎年低い予想を出して上方修正する会社」。今期は既に第1四半期に特別利益26億円が確定している。

強気の芯(確度順)
  1. 今期の上振れが既に確定している。2026年6月に投資有価証券を売却し、26億円の特別利益を第1四半期に計上(税引後で通期予想の13.8〜14.2%)。会社は「業績予想は現在精査中」と自ら書いている確度 高
  2. 会社予想が構造的に保守的。保守度+24.2%(当方の母集団で最大)、直近2期とも期中に上方修正、中期経営計画PhaseⅡを1年前倒しで達成。今期計画は自社の実績・中期目標・事業環境の3つと整合しない確度 高
  3. 政策保有株式284億円(時価総額の17.3%)を、2029年度末までに純資産比20%未満へ削減すると公約。創出資本は成長投資と株主還元(累計300億円規模・自己株200万株)へ確度 中
最強の弱気

「安い」わけではありません。PBR 1.87倍は理論PBR(r=8%)2.00倍の93%で、市場はほぼ正当に評価しています。同じ日に調べた8892 エスコン(66%)・6083 ERI HD(74%)より歪みが小さい。

そして同業と並べると、ROEが最も低い。ダイダン21.3%・三機工業20.4%・朝日工業社20.2%・テクノ菱和19.8%に対し1952は15.71%。「1952が安い」のではなく「ROEが4pt低いから相応に低い」だけで、PBR÷ROEで見ると同業のレンジ内(中位)です。

分水嶺 — 何が決着させるか
2026-08-07第1四半期決算。完成工事総利益率が16.0%以上を保つか(前期通期17.6%)。特別利益26億円の計上と業績予想の修正の有無
2026年内業績予想の修正(会社が「精査中」と明言)
2026〜2029年度政策保有株式の追加売却(純資産比37.0%→20%未満)
2026〜2029年度自己株式取得(200万株規模=発行済の4.1%)
2027-05中旬通期決算。中期経営計画PhaseⅢ 2年目

3点に共通する前提:本業の完成工事総利益率17.6%が崩れないこと。1は特別利益だが本業が悪ければ相殺され、2は本業の実力が計画を上回る前提、3は本業が健全でないと還元に回らない。3点は独立していません。利益率が下がれば3つ同時に弱くなります。

01

AI・データセンター銘柄ではなかった

売上の内訳を取ったところ、データセンター関連が明示されているのは海外関係会社(売上の11.6%)だけでした。国内は「工場関連工事」と一括りにされ、データセンター単独の金額は開示されていません。むしろ売上の57.9%はリニューアル(既存建物の改修)で、会社自身が「リニューアル工事は全体の約6割を占め、完成工事高を下支え」と書いています。連関台帳には「業績には効くが株価がAI関連として動いていない=歪みの可能性」という仮説が登録されていましたが、今回の内訳取得で「業績にも大きくは効いていない」が正しい可能性が高くなりました。台帳を訂正しています。

02

今期の上振れが、決算前から確定している

2026年7月1日の適時開示(原文)——「売却益 26億円」「発生時期 2026年6月」「2027年3月期第1四半期連結決算において特別利益に計上する予定」。そして続けて「当期の業績予想につきましては、他の要因なども含め現在精査中でありますので、開示の必要性が生じた場合には確定次第速やかに公表いたします」。税引後で約17.7〜18.2億円、通期純利益予想12,800百万円の13.8〜14.2%に相当します。この会社は保守度+24.2%(当方の母集団で最大)で直近2期とも期中に上方修正しており、その常連が、上振れ要因を自ら開示したうえで「精査中」と書いている状態です。

03

同業と並べたら、ROEが最も低かった

空調設備工事の上場企業を並べると、ダイダン21.29%・三機工業20.39%・朝日工業社20.15%・テクノ菱和19.83%に対し、1952は15.71%で最も低い結果でした。PBRも1.92倍で同業中央値2.42倍を下回ります。つまり「1952が割安」なのではなく「ROEが同業より4pt低いから、PBRも相応に低い」だけです。PBR÷ROEで見ると0.122で、同業のレンジ(0.100〜0.132)の中位。中期経営計画の「ROE18%以上」という目標も、同業が既に達成している水準で、野心的というより「追いつく」計画です。

00

地雷チェック

数字を素直に読んではいけない箇所はどこか
必須
08
政策保有株式の大きさ
284億円=純資産(個別)の37.0%・時価総額の17.3%。株式市況が特別損益を通じて業績に直結します。
該当
03
株式分割
2025年1月1日付で1:2。1株あたりの数値は分割調整の有無を必ず確認する必要があります。
該当
06
連結と個別の乖離
個別の純利益12,492 > 連結12,154。関係会社が連結で利益を減らしています(国内関係会社は−25.3%の減収)。
留意
03b
営業CFが純利益を下回った
11,621百万円(前期14,238から−18.4%)。純利益12,154を下回りました。運転資本の増加と推測されますが内訳は未確認です。
留意
02
セグメント変更・連結範囲
いずれも無し。そもそも単一セグメント(空調設備工事業)で、内訳は補足開示です。
クリア
07
支配株主・本業外事業
いずれも無し。筆頭は取引先持株会(協和会8.44%)で、上位10名でも40.95%。
クリア
この節の結論

会計上の地雷は少ないが、政策保有株式284億円が業績と需給の両方に効く。株式分割をまたぐ1株数値と、営業CFの落ち込みの内訳が要確認。

01

利益の分解

売上はどこから来て、なぜ利益率が上がったのか
88%
歯止め単一セグメント(空調設備工事業)のため、セグメント利益の開示はありません。以下はすべて売上(完成工事高)の内訳です。利益の内訳は取れません。
区分完成工事高(百万)構成比前期比
個別(単体)国内・一般120,48777.8%+15.8%
個別・原子力7,9175.1%+12.8%
関係会社・国内8,4875.5%−25.3%
関係会社・海外(データセンター関連が牽引)17,99111.6%+17.9%
2026年3月期。出所:決算説明資料(TDnet 20260513529595)。検算:内訳合計154,882 ÷ 連結154,884 = 100.0%(端数)。
別の切り口完成工事高(百万)構成比前期比
新築65,14542.1%+16.9%
リニューアル(改修)89,73857.9%+9.5%
保健分野66,82043.1%+13.3%
産業分野(工場・データセンター)88,06356.9%+11.9%
受注ベースでは保健分野が+25.7%と急伸(産業は+7.8%)。完成工事高の構成比とは逆向きで、1〜2年後に構成が変わる可能性がある。検算:保健82,877+産業94,885=177,762=受注工事高。

断絶は売上ではなく「利益率の階段」

受注段階の採算選別
完成工事総利益率14.6→16.0→17.6%
営業利益率7.2→8.2→9.8%
完成工事高前期比完成工事総利益率営業利益率純利益
2024/03127,978+7.6%14.6%7.2%7,168
2025/03137,684+7.6%16.0%8.2%9,656
2026/03154,884+12.5%17.6%9.8%12,154
2027/03 会社予想160,000+3.3%10.0%12,800
会社の説明(原文):「利益増加の背景としては、完成工事高の拡大に加え、受注段階における採算性の改善、プロジェクト管理の高度化、施工体制の効率化が進展したことによっています」。単位:百万円。
この節の結論

3期連続で純利益+25〜35%を出した原動力は売上ではなく利益率で、その正体は「受注を選別して採算の良い工事だけ取る」という方針転換。一過性ではないが、17.6%からさらに上げるのは14.6%から上げるより難しい。

02

効くKPI

何を、どこで見れば、業績を先に読めるか
85%
KPI2026/3期観測方法
完成工事総利益率17.6%
+1.6pt
四半期決算。最大の分岐。14.6→16.0→17.6と2期連続+1.6pt
繰越工事高1,487億円
+18.2%
会社が「翌期以降の売上基盤を支える重要な指標」と明記。今期計画1,687億
受注工事高1,777億円
+15.5%
今期計画1,800億(+1.3%)
保健分野の受注+25.7%決算説明資料。先行指標。産業(+7.8%)より速い
海外関係会社の完成工事高17,991
+17.9%
データセンター関連の唯一の代理変数
政策保有株式の残高284億円
純資産比37.0%
有報(年1回)。中計目標は2029年度末に20%未満
自己株式取得中計でPhaseⅢ中に200万株規模を明言
発見繰越工事高 ÷ 完成工事高が0.91年→0.96年→1.05年(計画)と厚くなっています。検算:受注1,800億 − 完成1,600億 = +200億 → 繰越1,487+200 = 1,687億で会社計画と一致します。つまり会社は「受注はあるが施工しきれない」ことを計画に織り込んでいます。繰越が増えるのは需要が強いからではなく、捌けないからです。
この節の結論

追うべき指標は完成工事総利益率と繰越工事高の2つに絞れる。手持ち工事は約1年分に厚くなっており、売上基盤は当面確保されている。

02b

業界と競合

縮む市場でなぜ伸びているのか、そして同業と比べてどうか
83%
業界1952
建築着工(非住宅)棟数−10.0%・床面積−14.2%(2025年6月〜2026年5月)完成工事高 +12.5%
公共事業関係費6兆1,078億円・前年比 +0.4%(ほぼ横ばい)受注 +15.5%
AI・半導体の国費1兆2,390億円・前年比 3.7倍海外関係会社 +17.9%
業界数値は本日の政策調査(財務省「令和8年度予算のポイント」/不動産経済研究所・国土交通省)から再利用。

業界との比較を一次情報で確定させた

令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の受注高金額前年度比
受注高(元請+下請)合計126兆2,531億円−0.3%
総合工事業(ゼネコン)75兆8,639億円−1.5%
職別工事業14兆8,359億円−19.2%
設備工事業35兆5,532億円+13.8%
1952 新日本空調の受注工事高1,777億6千2百万円+15.5%
出所:国土交通省「建設工事受注動態統計調査報告(令和7年度計分)」(2026年5月13日公表・6月12日一部訂正)。令和7年度は1952の2026年3月期と期間が完全に一致する。月次でも設備工事業は19か月連続の増加で、直近(令和8年3月分)は+29.6%、元請ベースでは+52.5%。
発見建設業全体が−0.3%、ゼネコンが−1.5%、職別工事業が−19.2%のなかで、設備工事業だけが+13.8%です。そして1952は+15.5%で、業界を1.7pt上回っています。発注者別に見ると、情報通信業(=データセンター)+19.0%、電気・ガス・熱供給・水道業+18.0%、運輸業・郵便業+60.9%が伸びる一方、製造業(=工場)は−4.2%。「工場とDCの両方が伸びている」と一括りにすると誤ります。
前回の訂正前回このレポートで、二次情報の「管工事の受注高+20.7%」を根拠に「1952の+15.5%は業界を下回るかもしれない」と書きましたが、一次情報を取ったら逆でした。二次情報は期間が10か月(2025年4月〜2026年1月)で分類も「管工事」(給排水・ガスを含む)でした。業界比較は期間と分類を企業側の開示と揃えてから行う必要があります。
読み方非住宅の新築着工が−10%の市場で、完成工事高+12.5%・受注+15.5%を出しています。その理由は構造で説明できます——新築の量ではなく、リニューアル(57.9%)と採算選別で伸びているからです。新築の市場が縮んでも、既存建物のストックは減りません。
歯止め政策の追い風は金額で追えません。日本成長戦略のロードマップは半導体のボトルネックとして「産業用地、電力、水」「広大な土地、大量の水・電力」を名指ししていますが、空調・設備工事を独立した品目としては挙げておらず、「半導体1品目68.0兆円」の中に埋もれています。そこから空調に配分される金額は示されていません。定性的な追い風以上のことは言えません。

同業の横並び — ここが今回の決定的な発見

銘柄時価総額(億)PERPBRROE自己資本比率配当利回り
1980 ダイダン3,92413.732.8221.29%56.2%2.99%
1961 三機工業3,95448.129.2820.39%55.3%2.65%
1975 朝日工業社1,08111.102.0220.15%50.5%3.62%
1965 テクノ菱和1,37811.372.0119.83%65.7%1.82%
1723 日本電技(計装)1,53117.623.1819.32%76.7%2.40%
1952 新日本空調1,69213.051.9215.71%61.0%3.44%
1969 高砂熱学工業(業界最大手)6,23715.542.7719.02%55.0%2.77%
1414 ショーボンドHD(補修)2,79617.492.4814.28%81.4%1.96%
出所:IRBank(建設業・時価総額400〜6,000億円・ROE 8%以上・自己資本比率40%以上でスクリーニング)。時価総額とPERは2026-08-05終値ベースのため、本文の他の数値(8/6終値3,390円)とわずかにずれる。三機工業(PER 48.1・PBR 9.28)は明らかに異質で、一過性の要因があるとみられるが未確認。
発見業界最大手の高砂熱学(時価総額6,237億円)を含めても、同業のROEは19〜21%に集まり、1952の15.71%は最も低い。PBR÷ROEで見ると1952は0.122で、同業のレンジ(0.100〜0.132)の中位。つまり割安でも割高でもありません。中期経営計画の「ROE18%以上」も、同業が既に達成している水準です。

ROEの差は「政策保有株式の削減の進み方」で一部説明できる

1980 ダイダン1952 新日本空調
ROE21.29%15.71%
政策保有株式157億円284億円
純資産に対する比率19.4%(達成済み)37.0%
目標年度2027年3月期2029年度末(3年遅い)
当期の売却額約45億円14.75億円
出所:各社の有価証券報告書(ダイダンは第97期 EDINET S100YGXY)。ダイダンの原文——「2027年3月期までに…連結純資産比20%未満とすることを目標としておりますが、当連結会計年度におきましては…約45億円を売却した結果、政策保有株式の保有比率は連結純資産比19.4%となりました」。
発見政策保有株式の含み益は純資産(ROEの分母)を膨らませます。削減が進んでいる会社ほど分母が小さく、ROEが高く出ます。ダイダンは既に19.4%で目標達成済み、1952は37.0%でまだ半分も減らしていません。つまり1952のROEが低い理由の一部はこれで、削減が進めば分母が縮んでROEは上がる方向です。中計の「ROE18%以上」は、政策保有株式を減らせば自然に近づく設計とも読めます。ただし削減ペースは会社の裁量で、目標年度は同業より3年遅い。

真の競合は誰か(5層)

① 同業

ダイダン・三機工業・朝日工業社・テクノ菱和。いずれもROE 19〜21%で1952より高い。市場規模の分け合いというより、採算と施工体制の競争です。

② ゼネコン(元請)

設備工事は建築工事の下位に入ることが多く、大成建設・鹿島等の元請が発注者です。採算は元請との交渉で決まります。1952の「採算選別」はこの交渉力の話でもあります。

③ 代替手段

ありません。建物に空調は必須で「やらない」という選択が存在しません。

④ 同じ財布

建築工事費全体。資材・労務費が上がると、発注者の予算のなかで他工種と取り合いになります。空調が建築費に占める比率は一次情報で未確認です。

⑤ 施工人員の奪い合い(最重要)

最も現実的な競合。会社自身が「採算性と施工体制を重視して受注量を追わない」と明言し、質疑でも施工人員がボトルネックかと問われています。この業界の制約は需要ではなく供給(人)です。だから「受注は取れるが施工しきれない」=繰越が積み上がる構造になります。

この節の結論

新築市場が縮むなかで伸びられる理由は構造で説明できる(リニューアル57.9%+採算選別)。ただし同業と並べるとROEは最も低く、「業界で最も優れている」わけではない。制約は需要ではなく施工人員という供給側にある。

03

中計と掛け算パス

会社の計画は何を意味し、数字を掛け合わせると何が出るか
88%
中期経営計画「SNK Vision 2030 PhaseⅢ」(2026〜2029年度)2029年度目標2026/3期実績からの伸び
受注工事高2,200億円+23.8%
完成工事高2,000億円+29.1%(CAGR 6.6%)
営業利益(率)240億円(12.0%)+58.7%(CAGR 12.2%)
当期純利益(率)180億円(9.0%)+48.1%(CAGR 10.3%)
ROE18%以上16.0% →
出所:中期経営計画「SNK Vision 2030 PhaseⅢ」(TDnet 20260512527005・2026年5月13日)。成長投資はPhaseⅢ期間で300億円規模。

資本政策 — 今回の最大の発見

方針中身(原文の要点)
政策保有株式「2029年度末までに、純資産に対する比率を20%未満とすることを目標」(2026年3月末は約37%)
株主還元の総額PhaseⅢ期間 累計300億円規模
DOE5%を下限(2026/3期実績6.6%)
累進配当2029年度まで継続
自己株式取得PhaseⅢ期間中、200万株規模を目安に機動的に実施(発行済の4.1%相当)
原資「政策保有株式の削減により創出した資本を成長投資および株主還元へ有効に活用」

掛け算パス

パス計算結果
① 投資額 × 成熟利益成長投資300億円(4年)→ 営業利益の増分目標+88.7億円粗い利回り 29.6%
② その利回り × 既存ROIC新規29.6% vs 既存ROIC 14〜16%新規のほうが高い
③ 中計EPS × 株数180億円 ÷ 45,448,458株含意EPS 約396円
現在値の含意PER 8.6倍
④ PBR逆算PBR 1.87 ÷ 株主資本コスト8%(自前推定)織り込みROE 14.9%
実績16.0%との差 +1.1pt
②の検算:会社の中計もROE 16.0%→18%以上と改善を見込んでおり方向が一致する。④:理論PBR=16.0%÷8%=2.00倍で、現PBR 1.87はその93%
この節の結論

①②③は「中計が達成されれば安い」と言うが、④は「市場は既にほぼ正しく評価している」と言う(理論値の93%)。PBRの歪みでは説明できない。この銘柄の源泉があるとすれば、それは会社予想の保守性と政策保有株式の取り崩しの2つに限られる。

04

需給・財務・経営者

誰が持ち、稼いだ現金をどう使い、誰が経営しているか
80%
株主(2026年3月31日・有報ベース)持分備考
新日本空調協和会8.44%取引先持株会が筆頭株主
日本マスタートラスト信託銀行7.30%うち信託業務分 1,524千株
新日本空調従業員持株会4.88%持株会2つで計 13.32%
三井住友銀行/三井住友信託/三井不動産/三井物産計 10.59%三井系4社
日本電設工業/東芝計 6.10%事業会社
上位10名 計40.95%60%未満。支配株主もアクティビストも不在
自己株式 3,115千株(発行済の6.4%)。時価総額1,646億円は東証プライムのTOPIX継続ライン360億円の4.6倍で、指数除外の懸念はない。

「持たれている側」のリスクを構造で確認した

1952が保有する銘柄(上位)計上額(百万)前期当社株の保有1952の株主としての持分
三井不動産4,9693,9932.20%
日本電設工業4,7652,1013.34%
日本ドライケミカル1,881774
オリンパス1,8623,216—(一部売却済み
住友不動産/太平電業/東京エネシス/ヤクルト本社1,800〜760
東海旅客鉄道/帝国ホテル1,204/1,155
三井住友トラストG/三井住友FG996/—2.64%/3.55%
出所:有価証券報告書 第57期の特定投資株式。有報には「当社の株式の保有の有無」という欄があり、上位12銘柄中9銘柄が「有」=相互持ち合いだった。
発見1952の大株主のうち、三井不動産・日本電設工業・三井住友銀行・三井住友信託は「相互持ち合い」でした。これらが1952株を売るときは1952も相手の株を売る(あるいはその逆)という交渉になるため、一方的に売られるリスクは純粋な政策保有株主より低いと考えられます。また1952はオリンパス株(「無」)を一部売却済みで、「無」の銘柄から先に売っています。裏を返すと持ち合い(「有」)の銘柄は後回しになりやすく、284億円の削減ペースはその分だけ鈍りうる。
歯止め例外は東芝(2.76%)です。1952の特定投資株式の上位12銘柄に東芝は入っておらず、一方的に1952株を持っている可能性が高い。東芝は2023年に非公開化しており資産売却の圧力があります。これが最も現実的な需給リスクですが、東芝側の方針は非公開化により確認が難しく、未確認です。

財務 — 実質無借金

2025/3期2026/3期
総資産118,166135,391
自己資本比率58.6%61.0%
営業CF14,23811,621
投資CF+2,048+197
財務CF−10,184−5,169
現金及び現金同等物20,12026,869
繰越工事高 ÷ 完成工事高0.91年0.96年
単位:百万円。
発見営業CFが純利益を下回った理由は判明しました。短信の原文——「税金等調整前当期純利益168億7千8百万円、売上債権の増加による支出37億6千2百万円等により116億2千1百万円の資金の増加」。売上が+12.5%伸びたことに伴う運転資本の増加で、正常な動きです。さらに年次で見ると2024年3月期の営業CFは−13,562(マイナス)でした。建設業の営業CFは年で大きく振れるため、今期の水準はこの振れ幅の中では正常範囲です。
キャッシュ・フロー関連指標2022/032023/032024/032025/032026/03
自己資本比率53.7%53.2%55.8%58.6%61.0%
時価ベースの自己資本比率45.0%39.9%67.5%67.0%109.4%
CF対有利子負債比率0.5年0.2年0.2年0.2年
インタレスト・カバレッジ・レシオ658倍1,352倍1,618倍3,612.8倍
出所:決算短信のCF関連指標。CF対有利子負債比率0.2年 × 営業CF 11,621 から、有利子負債は約23億円と逆算できる。インタレスト・カバレッジ3,612.8倍は利払いが年3百万円程度ということで、金利がいくら上がっても効かない。2024年3月期は営業CFがマイナスのため両指標が「—」。
歯止め純資産の増加133億75百万円のうち、48億75百万円(36.4%)は「その他有価証券評価差額金の増加」=政策保有株式の含み益です。つまりROE 16.0%の分母が株式の含み益で膨らんでいます。同業とのROE比較(1952が最低)を見るときは、同業の政策保有株式の規模も確認しないと公平な比較になりません(未確認)。

経営者 — 危険信号の判定

02
就任後に業績が伸びていない
3期連続で純利益+25〜35%、利益率7.2%→9.8%。中計PhaseⅡを1年前倒しで達成し、PhaseⅢで目標を引き上げています。
クリア
03
社外取締役が少ない/お飾り
社外取締役4名・監査等委員会設置会社。指名・報酬委員会も設置し3名中2名が社外。取締役会9回で主要メンバー全員が全出席。
クリア
01
持株がゼロ/極小
社長 廣島雅則氏(1967年生)は2024年4月就任で、持株は20千株=約6,780万円。会長94千株・専務44千株より少ないのは就任が新しいため。ゼロではないが大きくもない。
留意
04
資本コストの開示
中計に「資本コストを意識した経営を徹底」とあるが、資本コストの数値は開示していない(同じ日に調べたエスコン・ERI HDはいずれも開示していた)。
留意
この節の結論

財務は極めて健全(自己資本比率61.0%・実質無借金)で、ガバナンスの形も整っている。株主構成は持株会が筆頭で支配株主が不在。ただし資本コストの水準を開示しておらず、そこは同業・他社に見劣りする。

05

市場はどう見ているか

株価に何が織り込まれ、会社予想は信用できるのか
90%
資本コスト r市場が織り込むROE実績16.0%との差理論PBR
7%13.1%+2.9pt2.29倍
8%14.9%+1.1pt2.00倍
9%16.8%−0.8pt1.78倍
PBR 1.87倍(株価3,390円 ÷ BPS 1,817.48円)から逆算。現PBRは理論PBR(r=8%)の93%で、同じ日に調べた8892 エスコン(66%)・6083 ERI HD(74%)より歪みが小さい。株主資本コストは会社が開示していないため自前推定。

会社予想の保守性 — この銘柄の核心

#今期計画(売上+3.3%・営業利益率+0.2pt)が整合しない点
1前期は実際に+12.5%増収した。施工体制は1年で縮まない。+12.5%の実績があるのに+3.3%の計画
2初年度+3.3%、その後3年で年率+7.7%(1,600億→2,000億)。通常は逆で、勢いのある初年度に高く置く
3営業利益率は2期連続+1.6ptずつ上げてきたのに、初年度だけ+0.2pt(9.8→10.0%)
保守度+24.2%(当方の母集団で最大)。直近2期とも期中に業績予想を修正(2025-04-23は期末3週間前、2026-02-12は3Q発表と同時)。会社自身が「中期経営計画PhaseⅡの主要経営数値目標を1年前倒しで達成」と書いている。ただし能力制約(受注1,800億−完成1,600億=繰越+200億)という説明も計算上は成立する。

注目度 — 物差しの層

判定根拠(実測)
① アナリストのコンセンサス存在しないIFIS株予報を実測(2026-08-06)。通期の売上・営業利益・経常利益・当期利益の全4項目が空欄
② 会社予想あり160,000/16,000/16,500/12,800
③ 自分の予測発表前日に登録FY2027/3 Q1の予測10件
持続層(個人の掘り手)未測定推測で埋めない
効率の判定はC(非効率)寄り。ただし会社は機関投資家・アナリスト向け決算説明会を開催し、質疑応答も公開している(質疑は6問)。「誰も見ていない」のではなく「見ているが数値予想を出していない」型で、同じ日に調べた6083 ERI HDと同型。
発見その質疑で「来期予想が低すぎないか」という質問は1件も出ていません。質問は施工人員・中東情勢・配当・成長投資とROE・自己株式・M&Aの6件で、業績予想の水準そのものを問う質問がゼロ。上方修正が常態化している会社では、アナリストは期初予想を初めから真に受けていないとも読めます。質問が出ないこと自体が、保守的である傍証にもなりえます。
この節の結論

PBRでは市場はほぼ正当に評価しており(理論値の93%)、歪みは小さい。未織り込みがあるとすれば、それは業績水準ではなく「会社予想が毎年低すぎる」という一点に絞られる。

06

反対意見と、固有の構造

最強の弱気論は何で、この会社にしかないものは何か
必須
#反対意見(強い順)
1PBRの歪みが無い。現PBR 1.87倍は理論PBR(r=8%)2.00倍の93%。同じ日に調べたエスコン(66%)・ERI HD(74%)と比べて市場は既にほぼ正当に評価している。「割安だから買う」という理由が成立しにくい
2同業と並べるとROEが最も低い。ダイダン21.3%・三機工業20.4%・朝日工業社20.2%・テクノ菱和19.8%に対し1952は15.71%。PBR÷ROEで見ると同業のレンジ中位で、割安でも割高でもない
3AI・データセンター銘柄ではない。DC関連が明示されているのは海外関係会社の11.6%だけ。売上の57.9%はリニューアル。連関台帳の「歪みの可能性」という仮説は今回の内訳取得で弱くなった
4利益率17.6%からの上積みは難しい。中計は4年で営業利益率12.0%=年+0.55ptしか見ていない。会社自身が減速を計画している
5成長の制約が供給(施工人員)にある。需要が強くても売上は伸ばせない。繰越が積み上がるのは捌けないから
6営業CFが純利益を下回った(11,621 vs 12,154)。内訳を未確認
7PERは5年平均9.54倍に対し現在12.66倍=+32.7%。安値PERは5.42〜11.68倍と2.16倍の開きがあり、床が収益で正規化できない
8当社は政策保有株式の「持たれている側」でもあり、三井住友銀行・東芝等が削減に動けば需給の重石になる

この会社にしかない構造

固有 ①

政策保有株式284億円(時価総額の17.3%)を保有し、2029年度末までに純資産比37.0%→20%未満へ削減すると数値で公約。削減目標を「純資産比」で数値化している会社は多くありません。既に26億円分を売却済みです。

程度の差

会社予想が構造的に保守的(保守度+24.2%・直近2期とも期中修正・中計を1年前倒し達成)。保守的な会社は他にもありますが、+24.2%は当方の母集団で最大です。

判定できず

売上の57.9%がリニューアルという構造。同業も改修比率は高いとみられますが、その内訳を取っていないため固有かどうか判定できません。

固有ではない

成長の制約が需要ではなく供給(施工人員)にあること、原子力関連工事を持つこと。いずれも建設・設備工事に共通で、無理に固有性として数えません。

この節の結論

固有性として確実に言えるのは政策保有株式の削減公約だけ。最強の弱気論は「市場は既に正しく評価しており、しかも同業のなかではROEが最も低い」という事実そのもので、これは反証が難しい。この銘柄の期待値は業績の成長ではなく、会社予想の保守性と政策保有株式の取り崩しに依存する。

V1

予測と反証条件

発表前に何を固定し、何が起きたら間違いを認めるか
必須
四半期の季節性(Q1構成比)Q1売上構成比Q1営業利益構成比Q1の営業利益率
2023/0319.4%8.7%2.8%
2024/0316.8%5.0%2.1%
2025/0318.1%6.7%3.1%
2026/0319.8%13.0%6.4%
レンジ16.8〜19.8%
1.18倍
5.0〜13.0%
2.62倍
2.1〜6.4%
今期予想からの含意Q1:売上 26,863〜31,644(前年Q1 30,632)/営業 797〜2,087(前年Q1 1,973)。売上の進捗率は使えるが、営業利益の進捗率は2.62倍振れるので使えない。
自分の予測の弱点(登録後に判明)予測の1つに「Q1の営業利益率が8.0%以上」と書きましたが、過去4年のQ1営業利益率は最高でも6.4%(前年)で、8.0%は前年から+1.6pt必要です。明らかに高すぎました。通期の営業利益率9.8%を基準に置いたのが誤りで、四半期構成比のレンジを取る前に予測を書いてしまいました。発表前に登録した予測は変更しません(外したまま答え合わせします)。
歯止め特別利益は毎年計上されています——2023/3期7百万円、2024/3期505百万円、2025/3期2,049百万円、2026/3期1,102百万円。今回の26億円は例年より大きいものの、会社予想12,800には例年並みの特別利益が既に織り込まれている可能性があります。前期比の差分は2,600−1,102=1,498百万円で、税引後では通期予想の8.2%。「26億円まるごとが上振れ」ではありません。
予測(発表前日に登録・FY2027/3 Q1/2026-08-07 確定)コンセンサスが存在しないため、サプライズは「会社予想比の進捗率」でしか測れません。ただし建設業は期末集中で第1四半期の進捗率は低いのが通常です。さらに今回は特別利益26億円が入るため、純利益の進捗率は本業を反映しません。本業は完成工事総利益率と営業利益で見ます。
  • 投資有価証券売却益26億円が特別利益に計上されるか — 2026年7月1日に会社が開示済み
  • 通期の業績予想を上方修正するか(確度6割)— 会社自ら「精査中」と明記
  • 完成工事総利益率が16.0%以上を保つか(前期通期17.6%・前々期16.0%)— 最重要の検証点
  • 繰越工事高が1,487億円を上回るか(今期末計画1,687億)
  • 第1四半期の受注が前年同期を上回るか/営業利益率が8.0%以上か
  • 保健分野の受注が前年同期比プラスか(前期+25.7%の先行指標)
  • 政策保有株式の追加売却・自己株式取得の発表があるか(いずれも「無い」と予測)
  • 決算翌営業日の超過リターンは−5%〜+5%(方向は当てにいかない)

反証条件(これが起きたら間違いと認める)

#条件期限
1第1四半期の完成工事総利益率が16.0%を下回る(前期通期17.6%)。強気3点の共通前提が崩れる2026-08-07
2通期の純利益が会社予想12,800百万円を下回る(特別利益26億円を計上してもなお)2027年5月
3繰越工事高が1,487億円から減少に転じる随時
4政策保有株式が今期末に純資産比35%を下回らない(前期末37.0%)。削減が口だけだったことになる2027年6月(有報)
5自己株式取得が今期中に発表されない(中計は200万株規模)2027年3月
6保健分野の受注が前年割れ(前期+25.7%)随時
V2

情報源

何を、どこまで読んだか
必須
  • 投資有価証券売却益(特別利益)の計上に関するお知らせ(TDnet 20260701585631・2026年7月1日)— 全文。今回の最大の発見
  • 中期経営計画「SNK Vision 2030 PhaseⅢ」の策定について(TDnet 20260512527005)— 全文6ページ。数値目標・成長投資・資本政策・政策保有株式・株主還元
  • 2026年3月期 決算短信(TDnet 20260512527076)— 1〜3ページを精読(業績・財政状態・CF・配当・予想・注記)。BS/PL本体は未精読
  • 2026年3月期 決算説明資料(TDnet 20260513529595・33ページ)— 全文テキスト化。完成工事高・受注の内訳(4区分/新築・改修/保健・産業)。先頭に社名の記載がないが、業績数値が短信と完全一致することで同一性を確認
  • 有価証券報告書 第57期(EDINET S100YDMT・2026年6月18日)— 大株主・政策保有株式・社外役員・MD&Aを精読。役員の持株数・事業等のリスクは未精読
  • 2026年3月期 決算説明会 文字おこし資料/質疑応答(irpocket・前回調査)— 質疑は全文6問(画像PDFを170dpiで書き出して読んだ)
  • 年次財務/バリュエーション8期分/同業6社の横並び — IRBank MCP(2026-08-06)
  • 市場コンセンサス — IFIS株予報(2026-08-06取得)。全4項目が空欄=カバレッジなし。次回決算日2026-08-07を確認。転載禁止のため本文には当方の判定のみ記載
  • 政策・着工統計・建築費 — 本日の政策調査(内閣官房・財務省・国土交通省・不動産経済研究所)を再利用

数字の品質について:デュポン分解は 7.85% × 1.222 × 1.669 = 16.00% で会社開示16.0%と完全一致(差0.00pt)。売上内訳の合計154,882は連結154,884と一致(端数)。受注の内訳合計177,762は受注工事高と一致。繰越工事高は「受注1,800億−完成1,600億=+200億→1,687億」で会社計画と一致。時価総額とPERについては、同業比較表がIRBankの2026-08-05終値ベース、本文の他の数値が8/6終値3,390円ベースのため、わずかにずれます。

未確認として残したもの:役員の持株数/営業CFが純利益を下回った内訳/有利子負債の内訳/空調工事が建築費に占める比率(一次情報で未確認)/当社株を持つ企業(三井住友銀行・東芝等)の政策保有株式の削減方針/四半期の季節性(Q1構成比を未計算)/業界の市場規模。